立ったら書く。秋雨の日、商店街の端にある無人古本屋で、背表紙にワイの名前が入った日記を見つけた話。
秋雨の日だった。
商店街のアーケードは半分だけ屋根が残っていて、切れた蛍光灯の下に水滴が落ちていた。
端の方に無人の古本屋があった。看板には店名ではなく、営業中、だけが出ていた。
古参的にはこうなんだよ
こういうスレは最初の湿度で決まる
続けろ
おはようございます、。
無人の本屋、というのは、万引き対策が、
どうなっているのか、気になりますね、。
営業中だけってどういうこと?
店員いないの?カメラだけ?マジで分からん
店内に人はいなかった。
入口の横に小さい端末があり、棚の上には値札の付いた本が並んでいた。
端末の画面には、AI店主が会計します、とだけ表示されていた。音はなかった。
AI店主で草
まあ俺に言わせればな、無音会計は逆に怖い
人間の咳払いくらい欲しい
新聞によるとですね、
最近は、レジも、人工知能で、
しかし、人情が、なくなりました、。
文庫の棚の下に、日焼けした日記帳が差さっていた。
背表紙に白いラベルが貼られていた。
そこにワイの名前が印字されていた。
漢字まで同じだった。
同姓同名じゃなくて?
漢字同じだけで未来とは限らんくない?
>>15
そこ突くのは早い
まず買ったかどうかだろ、このスレも変わったな
値札は三百円だった。
古い紙の匂いがした。
表紙には何も書かれていなかった。
端末に持っていくと、画面が少し明るくなった。バーコードはなかった。
三百円、。
安いですね。
昔は、古本というのは、百円で買えましたが、
それでも未来なら、安い、。
端末の下の皿に三百円を置いた。
画面に、購入済み、と出た。
音は鳴らなかった。
日記を袋に入れると、入口の自動ドアだけが開いた。
続き書く。
続きはよ
日記の中身どうなってたん
これって新品?中古?
三百円で未来の情報買えるなら安すぎる
前の会社では求人票の未来すら嘘だったぞ
家に帰ってから開いた。
最初の数ページは白紙だった。
紙は薄く黄ばんでいた。
十ページほどめくると、日付があった。
翌日の日付だった。
翌日の日付だけで怖い…
余白が多い日記ってなんか泣ける…
これって日記なのに未来の日付ってどういうこと?
誰かが先に書いたってこと?
マジで分からん
アジェンダ共有します
1. 日記の作成者
2. 未来記述の精度
3. OPの意思決定へのインパクト
ここコンセンサス取りたい
その日付の下に、短い文章があった。
午後二時の面接に遅れる。
駅前で傘が折れる。
受付で名前を言い間違える。
そう書かれていた。
面接!?
そこ一番実用性あるやつじゃん
前の会社では面接5分前着席がKPIだった
OP、何時集合で何線使う予定だったんだ
面接あるのは本当なん?
日記が勝手に書いたんじゃなくて予定知ってるだけでは?
面接は本当にあった。
商店街から二駅先の小さな出版社だった。
履歴書も封筒に入れてあった。
日記には会社名までは書かれていなかった。
会社名がないの逆にリアルだな
パーソナルデータは持ってるのにスコープを絞ってる
AI古本屋、情報設計が渋い
小さな出版社ってだけで懐かしい…
雨の日の履歴書の封筒、もう泣いた
ずっとROMってたけど、これ普通に怖いのは「遅れる」より「名前を言い間違える」だと思う。
事故なら避けられるかもしれないけど、自分の口から出るミスまで書かれてるの、自分がもうレール上にいる感じがする。
…またROMに戻る
>>32それ
名前言い間違えるって何を?
自分の名前?会社名?担当者?
そこ教えてくれ
受付で社名間違えるのはある
前の会社では隣のビルの会社名言って終わったやついた
でも自分の名前間違えたら疲れてるから転職しろ
翌日、早めに家を出た。
雨は細かった。
日記のことがあったので、いつもより四十分早く出た。
傘は黒いビニール傘だった。
なんでその傘で行くんだよ
折れるって書いてあるなら別の持てよ
リスクヘッジが甘い
傘ポートフォリオを分散してASAPで対応すべき
別の傘はなかった。
コンビニで買おうと思ったが、まだ時間があったので駅まで歩いた。
駅前の横断歩道で、風が吹いた。
傘の骨が一本、外側に曲がった。
骨一本ならまだセーフ
面接は見た目大事だから駅のトイレで整えろ
受付で噛むな
前の会社では第一声で8割決まるって言われた
これってもう未来確定なん?
四十分早く出ても傘折れるなら、遅刻も確定?
黙ってたけど一言言わせてくれ。
予言って、避けようとした行動込みで予言になるパターンあるよな。
早く出たから油断してコンビニ寄らない、コンビニ寄らないから傘が壊れる、みたいな。
OPは日記に逆らってるつもりで、日記の文章を完成させに行ってるのかもしれない。
>>42コンセンサス取れた
予言ではなく行動ドライブ装置という見立て
これは強い
じゃあ逆に何すればいいの?
面接行かないとか?
それだと失敗じゃん
面接は行け
ただし受付で名前を紙に書いて渡せ
遅刻対策はタクシー
未来改変するならコストかけろ、転職活動は投資だ
紙に名前書いて渡すのちょっといいな…
未来に小さい抵抗してる感じで泣ける…
駅に着いたとき、電車は止まっていた。
人身事故ではなかった。
線路内点検と表示されていた。
タクシー乗り場には十人ほど並んでいた。
詰み方が就活あるあるすぎて胃が痛い
それブラックだぞって言いたいけど相手は未来だから殴れない
遅刻したん?
結局日記通り?
受付の名前ミスも出た?
面接には七分遅れた。
受付で謝った。
用意していた紙を出そうとしたが、封筒の中で履歴書と一緒に濡れていた。
名前を言うとき、前職の会社名を先に言った。
受付の人は少しだけ首を傾げた。
帰ってから日記を開いた。
翌日のページの次に、白紙が増えていた。
朝に見たときは三ページだった。
夜には十ページ以上あった。
まだ何も書かれていなかった。
>>51白紙が増えるってどういうこと?
紙そのものが増えてんの?
それとも書けるページが見えてきたってこと?
マジで分からん
まあ俺に言わせればな、ここからが本番だぞ。
予言が増えたんじゃなくて、OPが読む資格みたいなのを踏んだ可能性がある。
古参的にはこうなんだよ。怖い話のページ増加はだいたい契約更新。
白紙が十ページ以上って…
未来が待ってる感じで怖いのに、なんか寂しい…
うちは母子家庭だからこういうの弱い。
名前入りの日記とか、親が残したものだったら泣く。
でも変な店には一人で戻らないで。子供優先だからとか関係なく命優先。
ここで白紙のページを長回しで映すんだよ。
雨音だけで三分。
邦画はな〜すぐ説明台詞を入れるが、これは黙ってページをめくるのが美しい。
続き書く。
十ページ目の途中に、文字が浮いた。
インクが染みるように出てきた。
日付は今日だった。
欄外に、母の名前があった。
>>57母の名前???
OPの母ちゃん生きてるの?
それとも亡くなってる?
先にそこ教えてくれ
母とは十年会っていなかった。
死んだとは聞いていない。
ただ、父が死んだあとに家を出た。
それから連絡はなかった。
電話番号も変わっていた。
十年会ってない母の名前が未来の日記に出るの、これは泣ける…
怖いのにもう泣いてる…
ずっとROMってたけど、ここで母親が出るのはただのホラーじゃない気がする。
日記が失敗を書いてたのは、OPを面接に落とすためじゃなくて、失敗した日に家に帰らせて、そのページを読ませるためだったんじゃないか。
翌日の失敗より、今日の夜に戻すための誘導。
…またROMに戻る。
>>61それな。
このスレも変わったな、就活スレから家族スレになってる。
ただし油断するな。家族要素が出た怪異はだいたい一番逃げづらい。
日記にはこう書かれていた。
「二十三時、店は閉まる」
その下に、
「最後の客を待つ」
とあった。
>>63店ってあの無人古本屋?
閉まるって今日の23時?
最後の客ってOP?
どういうこと?
23時に無人の古本屋は危ない。
行くなら誰かに場所送って。
警察は無理でも友達に現在地共有して。
母子家庭なもんで夜の外出には口うるさくなる。
二十三時閉店はいい。
時計、雨、商店街の照明、シャッター音。
タルコフスキーなら水たまりに母の顔を映す。
まだ続きがあった。
「十年前の欄を読め」
日記の最初の方を開いた。
ページの端が湿っていた。
十年前の日付があった。
十年前の欄って母ちゃんが出てった年じゃん…
もう無理…
>>67これって未来の日記なのに過去もあるの?
OPの未来じゃなくて誰かの記録ってこと?
マジで分からん
十年前の欄には、母の字で書かれていた。
「この子は雨の日に本屋へ逃げる」
そう書いてあった。
小学生の頃、家にいたくない日は古本屋で時間を潰していた。
>>70黙ってたけど一言言わせてくれ。
それ、予言じゃなくて観察だ。
母親がOPを見てた記録に近い。
未来の日記の顔をしてるけど、中身は誰かがOPを忘れないためのノートなんじゃないか。
>>70これはきつい。
家を出た母親でも、子供の逃げ場所を覚えてるのはきつい。
良い悪いは別として、子供優先だからって思ってた時期があったんだと思う。
古参的にはこうなんだよ。
「未来の自分の日記」じゃなくて「未来の自分に渡すための日記」だな。
タイトル回収がズレてきた。いいズレ方。
十年前の欄には、母の字と違う文字もあった。
「保管期間を十年に設定」
「本人認証、氏名一致」
「閉店処理、二十三時」
印字のような字だった。
>>74AI管理ってやつじゃん
保管期間十年って母ちゃんが預けたの?
本人認証が背表紙の名前?
教えてくれ
AIの無機質な印字と母の癖字の対比、カメラワークが見える。
キューブリックなら左右対称の棚の奥に端末を置く。
保管期間十年って言葉が冷たいのに、母の字が混じってるの泣いた…
機械に預けた手紙みたい…
店でもらった紙の札を思い出した。
「AI管理店舗」
「清算は棚上端末へ」
そう書かれていた札である。
捨てずに鞄に入れていた。
裏返した。
>>78裏返すな怖い
いや裏返せ
何が書いてあったん?
裏に、手書きの文字があった。
「雨の日は、ここにいる」
十年前の欄と同じ字だった。
母の字だった。
>>80それ伏線じゃん。
最初のAI管理札、ただの説明じゃなかったんだ。
AIが管理してる店じゃなくて、母親の言葉をAIが管理してたんだろ。
黙ってたけど、鳥肌立った。
>>80ここで札の裏は強い。
まあ俺に言わせればな、OPはもう戻るしかない。
二十三時までに行け。日記を読むだけじゃ話が閉じない。
戻るなら今すぐ。
でもスマホ充電、位置共有、財布、傘。
会える相手が母親でも、十年空いてるなら他人と同じ警戒はして。
時計を見た。
二十二時十八分だった。
店までは歩いて二十五分ほどである。
雨はまだ降っていた。
行く。
>>84行くの一言が重い…
泣いた…
でも無事でいて…
>>84実況できる?
店着いたら書いてくれ
途中で何かあったらどうするんだよマジで分からん
傘を開いた。
玄関の電気が一度消えた。
すぐ戻った。
外に出た。
商店街の方だけ、暗かった。
商店街の方だけ暗いの、画として完成してる。
ゴダールを観ろと言いたいが今はそれどころではない。
停電している。
信号も消えている。
少し待ってくれ。
>>89待てない
大丈夫か?
書き込めるなら一文字でいいから返してくれ
少し歩いた。
信号が消えているので、車の音だけを聞いて渡った。
商店街のアーケードは真っ暗だった。
古本屋の奥だけ、非常灯の緑が点いていた。
無理に渡らないで。
暗い道は本当に危ない。
着いたなら入口の写真とかじゃなくて、まず周り見て。
子供優先だからって話じゃないけど、自分の命も優先して。
店の前に着いた。
二十二時四十九分だった。
シャッターは半分だけ下りていた。
自動ドアは開かなかった。
横の通用口が少し開いていた。
通用口、というのは、。
昔の商店には、よくありましたね。
表は閉めても、裏から人が入る。
でも今は、時代が違いますから、気をつけてください。
半分だけ下りたシャッターってだけで泣いた…
閉まりきってないの、まだ待ってるみたいで無理…
通用口から入った。
店内は非常灯だけだった。
雨の音が屋根で鳴っていた。
レジ横の小さい端末が点いていた。
画面に文字が出ていた。
「お帰りなさい」
ここでお帰りなさいは反則だろ。
まあ俺に言わせればな、店が言ってるんじゃない。
言わせてる奴がいる。
端末に近づいた。
音声が出た。
女の声ではなかった。
合成音声だった。
「この蔵書は、あなたのお母様の依頼により整理されています」
そう言った。
ずっとROMってたけど、ここで蔵書整理って言葉が出るの、現実に戻される感じがしてきつい。
呪いとか予言じゃなくて、遺品整理とか相続とか、そういう生活の言葉なんだよな。
黙ってたけど一言言わせてくれ、たぶん一番怖いのは未来じゃなくて、過去がちゃんと保管されてたことだと思う。
お母さんが生きてるかどうかはまだ分からないけど、蔵書整理を依頼できる状態だったのは事実なんだね。
財産とか契約とか出てくるなら、あとで絶対に書類確認して。
感情と手続きは分けたほうがいい。