【悲報】定時後の会社、未払い残業が海になって社員を沈めてしまう
18時のチャイムと同時にオフィスが海になる謎SSスレ。最初は唐揚げと勤怠ネタで笑っていた住民たちも、次第に会社の闇に飲まれていく。
18時のチャイムが鳴った瞬間、オフィスの床に波が立った。最初に鞄を浮き輪代わりにしたのは経理の佐藤だった。
佐藤は「判子が濡れる」とだけ言った。
波は膝まで来ていた。
誰かの弁当箱が浮いていた。
唐揚げだけが先に沈んだ。
部長は沈んだ機械を拾おうとした。
佐藤が止めた。
「それを持つと、昨日の分まで沈みます」
誰も意味を聞かなかった。
聞く前に部長の革靴が片方沈んだ。
田中は拡声器を持っていた。
「避難より先に勤怠を確定してください」
その声が、波の上をよく通った。
誰かが笑った。
すぐに笑い声は止まった。
灯台の光は、波ではなく社員を照らした。
照らされた者の首元に、見えない名札が浮かんだ。
正社員。
契約社員。
派遣。
業務委託。
波の高さが、それぞれ違った。
総務島からロープが投げられた。
ロープの先には札が付いていた。
「正社員用」
山本はそれを見て、手を伸ばすのをやめた。
脱出より勤怠で揉めてるのに、助けるロープにも区分あるのきつい
会社って海より冷たいじゃん
ファイルの紙は乾いていた。
佐藤が開いた。
第一条の下に、赤字で追記があった。
「定時以後、社屋に残留する者は会社海域に属する」
佐藤が旧就業規則を読み上げた。
「第二十三条。定時退社者は陸路を選択できる」
その瞬間、窓の外に細い線が見えた。
水平線ではなかった。
道路だった。
薄い字は日付だった。
五年前の七月。
高橋の名前があった。
退勤時刻の欄だけが、ずっと空白だった。
申請欄には二時間と書かれていた。
実績欄には十七時間と書かれていた。
承認欄には部長の印があった。
不承認の印もあった。
五年前の俺は、それを見ていた。
見たが、見ないふりをした。
自分の書類が終われば、それでよかった。
終電に間に合ったから、それでよかった。
部長が止めた。
まだ終わっていないと言った。
佐藤は振り返らなかった。
終わっていないのは仕事ではないです、と言った。
俺の字は、こうだった。
俺だけ助かってすみません。
その下に、小さくもう一行あった。
助かったのに、何も言えなくてすみません。
黙ってたけど一言言わせてくれ
俺は働くのが嫌いなんじゃなくて、帰ることに罪悪感を持たされるのが嫌いだったんだと思う
頑張りたい日もあるし、残って助けたい日もある
でもそれを毎日当然にされると、こっちの生活が沈む
このスレ、変なSSなのにそこだけ妙に刺さった
…またROMに戻る
元スレッド: 【SS】定時になると会社が海になる(206レス)