【怖い話】無人駅の麦茶自販機、代金が「記憶」だった結果……
終電を逃した山奥の無人駅で、唯一光っていた自販機が話しかけてくるSSスレ。最初は笑っていた住民たちも、麦茶と古い切符が家族の記憶につながった瞬間に黙り込んでいく。
『冷たい麦茶、あります』
午前2時、山奥の駅で光っていたのはその自販機だけだった。少し書く。
自販機が話しかけてきた時点で帰れや
なんで聞く体勢入ってんねん
声は女の人でも男の人でもなかった。
古い駅の放送みたいに、少しだけ割れていた。
だが機械の音ではなかった。
言葉の端に、相手を起こさないような間があった。
取り出し口には、缶ではなく紙の切符が入っていた。
濡れていない、古い硬い切符だった。
行き先の欄は空白だった。
自販機が言った。
『お代は、あとで結構です』
続き書く。
そこ重要
缶の規格は現代で印字情報だけ過去なら、単なる古い在庫じゃない
ラベル生成か、見る側の認識を書き換えてる可能性ある
何が必要なのか聞いた。
自販機の蛍光灯が、一度だけ暗くなった。
『ご乗車には、記憶が必要です』
駅の向こうで、風が木を揺らした。
『どなたかに、連れてきていただいた記憶はありますか』
取り出し口の奥で、また缶が転がった。
二本目ではなかった。
俺の手の中の麦茶が、少しへこんだ。
缶の表面に細い筋が入り、そこから水滴が流れた。
水滴は、字になった。
『なつえ』
待合室の入口に、駅員が立っていた。
帽子を深くかぶっていて、顔は見えなかった。
駅員は祖母に言った。
『切符はありますか』
祖母は首を横に振った。
駅員は、自販機と同じ声で言った。
『では、何を置いていかれますか』
祖母は言った。
『あの家の匂いでいいですか』
駅員はうなずいた。
その瞬間、待合室から畳の匂いが消えた。
夏草の匂いも、台所の匂いも消えた。
祖母は少しだけ目を伏せた。
声は一つではなかった。
駅員の声。
女の人の声。
子どもの声。
全部が重なって、礼儀正しい一つの声になっていた。
『お待たせしました』
赤ん坊は、俺の母だった。
祖母は母を抱いて、来ない列車を待っていた。
その夜、駅は廃止される予定だった。
けれど、事故のせいで、最後の列車は駅に着かなかった。
最後の客だけが、駅に残った。
『私は、あなたに優しい母親ではありませんでした』
『あなたが私を嫌っても、当然です』
『でも、あなたが寒い夜に誰かを待つ人になりませんように』
そこだけ、強く書かれていた。
『あなたの母は、帰れなかった私を背負って生きた人です』
『だから、あなたまで背負わなくていい』
『麦茶は、冷たいまま飲みなさい』
手紙はそこで終わっていた。
飲み終えると、缶の底にまた字が見えた。
今度は印刷のような字だった。
『お預かりした伝言は、配達されました』
その下に、小さくこうあった。
『ありがとうございました』
ポケットの缶を取り出した。
底にあった文字は消えていた。
代わりに、缶の側面へ小さな名前が残っていた。
『佐伯』
それだけだった。